カイロプラクティックの主要なアジャスト法

種々のカイロプラクティック・テクニックにおいて,共通のアジャスト法がいくつもあることは意外なことではないかもしれない.その一方で,特定のテクニック様式と密接に結びついたアジャスト法もあり,たとえば,屈曲−伸延アジャスト法といえば,コックス・テクニックのカイロプラクターがおはことする手技である.また,側臥位マニピュレーションのように,ほとんどとまではいかないが,多くのテクニックで使用されている手技もある.そこで,主要なアジャスト法をまとめて解説しておく.
1990年代の初め,ACAのテクニック諮問委員会は,カイロプラクティックで使用される手技を分類するための詳細なアルゴリズムを作成し,それが広く活用されている.このアルゴリズムでは,まず徒手的手技か非徒手的手技かに分かれ,徒手的手技は,関節を対象にする手技と関節以外を対象にする手技とに分かれる.さらに関節を対象にする手技は,特異的なものと非特異的なもの,および器械の補助を借りて手で力を加えるものと手で補助しながら器械で力を加えるものに分かれる.最後に,関節を対象にするすべての手技は,使用するテコ(長いか短いか,長短両方を使うか),スラストの速度・振幅によって分類される.このアルゴリズムはある意味でたしかに役に立つが,そこまで細かく分類することはせず,カイロプラクターがどのようなアジャスト手技を実践しているのかを簡潔に説明することにした.

ドロップ・テーブルを使用するHVLA

ドロップ・テーブルとは,台の部分が1つ,または2つ以上に分かれたテーブルのことで,それぞれの台に患者の体の各部位を載せられるようになっており,ドクターが患者の体のある部分にスラストを加えると台が少しだけ下がるようにつくられている.スラストを加えたときに下がる台は,カムの仕組みで支えられているので,ドクターが自分らの加えた力に応じて台が下がるように調節することができる.ドロップ・テーブルは,患者が腹臥位でも,仰臥位でも,あるいは側臥位でも使用できる.
 スラストを加えたときに患者の体がどれだけ動くかは,カムの設計によって決まるため,ドロップ・テーブルを使用すると比較的安全に高速低振幅(HVLA)の力を加えることができるともいわれている.「高速」というのは読んで字のごとくの意味だが,「低振幅」というのは,ドクターがコンタクトした患者の体の部分が少しだけ動くという意味である.ドロップ・テーブルを使用する手技は,多くのテーブルがドクターの身長に応じて台の高さを調節できるようになっているので,少なくとも側臥位のアジャスト法と比べれば,ドクターに比較的無理のかからないテクニックである.つまり,(しばしば誤用される表現だが)「テーブルが活躍する」というわけで,たとえドクターが背中を痛めていても,ドロップ・テーブルを使用すればHVLAスラストを行うことができるのだ.ピアースーステイルワゴン・テクニックと,トムソン・テクニックでは,多くの手技でドロップ・テーブルを使用する.

ドロップ・テーブルを使用しないHVLA

このHVLAスラストも,テーブルの上に患者を仰臥位,腹臥位または側臥位にさせて行うが,アジャストメントのときにテーブルを固定しておくテクニックである.側臥位でのアジャストメントでは,患者は上側の膝を腹のほうへ引き寄せた姿勢になり,ドクターは片手を患者の肩または腹の前に置いた前腕に当てて,患者の胴体を固定する.この姿勢でドクターは腰と骨盤の部分にスラストを加えるが,多くの手技は,腰椎の1つか骨盤骨の1つに限定して用いられる.このテクニックには何種類ものバリエーションがあり,患者へのコンタクトのしかたが異なる手技や,あらかじめ患者の体を回旋させておく手技とさせない手技,患者の下側の脚にテコを使用する手技としない手技など,実にさまざまな手法が使用されている.関節キャビテーション(空洞化)を伴うことが多いが,必須条件ではない.側臥位アジャスト法がよく用いられるのは,デイバーシフアイド・テクニックと,ガンステッド・テクニックである.
 HVLAテクニックは,頚部,胸部,腰部に対して使用する場合,患者を仰臥位や腹臥位.にして行うこともある.腹臥位は頚部および胸部に対するテクニックに多いが,腰部へのテクニックにも採用されている.また,仰臥位は胸椎に対するテクニックの場合に一般的だが,上部腰椎,前方変位を起こした胸椎や腰椎に対する手技で使用されることもある.

骨盤ブロッキング法

患者の左右の骨盤の下に,パッドを詰めた楔型の治療器具(ブロック)を一定時間入れておく手法で,患者の状態に応じて適切な姿勢になるようにブロックの入れかたを変える.患者の体位は腹臥位か仰臥位で,患者の検査所見からブロックを入れる方向を決める.仰臥位の場合,ブロックを入れておく時間は2分以下で,腹臥位の場合は2分を超えることがある.ブロックで支点を左右非対称の位置にすることによって,重力を利用してアジャストメントを行うので,比較的ローフォース・テクニックの部類に入るといえる.SOTは,ブロックを使用することが多い.

器具を使用するアジャスト法

患者のコンタクト・ポイントとして選んだ分節を,先端部分の尖った器具で直接振動するようにして力を加えるアジャスト法である.器具を使用するアジャスト法は上部頚椎テクニックで考案されたが,この20年ほどの間に,フルスパイン・アジャスト法として広く使用されるようになった.アジャストに必要な力を加えるための仕組みはいくつか考案されており,たとえば特殊なカムを使ったものや電磁操作器具などがつくられている.手で持って使うものや,アジャスト・テーブルに取りつけ可能なもの,床に立てて使う装置に組み込まれたものなどがある.ほとんどの器具は,加える力の強さを調節できるようになっており,スラストのときに回転するというような複雑な動きが可能なものもある.器具を使用するアジャスト法は,アクティベータ・テクニック,トルク・リリース・テクニック,器具使用上部頚椎テクニックでそれぞれ詳しく説明する.また,カイロプラクティック生体物理学テクニックと脊柱生体力学テクニックにも,器具使用のアジャスト法が少しだけ登場する.

伸延マニピュレーション

軸骨格を分節ごとに手で支えながらY軸方向に伸ばすテクニックで,屈曲,あるいは稀に伸展と組み合わせて使用される.伸延テクニックはもともと腰部の治療法として考案されたが,いまでは,頚椎の治療にも用いられるようになってきた.このテクニックには通常,治療する部位の脊椎を安全に屈曲および牽引できるように設計された特殊なテーブルが使用される.このテクニックともっとも関係が深いのは,屈曲−伸延テクニックである.

モピリゼーシヨン

スラストや衝撃を加えることなく,関節を生理学的可動域の範囲内で,または限界まで動かす手技で,一度だけ動かす手法と何度か繰り返して動かす手法がある.モビリゼーションは,オステオパシーや物理療法などで使用されるほうが多いが,カイロプラクティックでもよく使われる手技である.HVLAテクニックを好むガンステッドやデイバーシフアイドでも,患者の状態によっては力の弱い手技が必要な場合があるので,モビリゼーションが取り入れられている.先に述べたブロッキング法や屈曲一伸延テクニックも,手だけを使うか,力学を利用するかの違いがあるにせよ,ある意味でモビリゼーションの一種ということができるだろう.

ローフォース・テクニック(反射テクニック,軟部組織テクニック)

ローフォース・テクニックの概念は複雑である.非常に弱い力しか使わないテクニック様式は多いが,中には「カを使わないこと(ノンフォース)」を様式の名称にしたテクニックまである.その名称をとやかく言うわけではないとしても,力学的作用をもたらすためには,いかなる形にせよ,必ず力を使用しなければならないはずだ.器具を使用するアジャスト法はあまり力がかからない手法だと言う人もいるが,たしかに機械的に叩打する器具は,徒手的アジャストメントで加わる力を超えないように設計されたものばかりだろう.しかし,そのような器具を使った場合,叩打の加速度が大きくなる可能性があり,質量×加速度=力(F=ma)という公式に従うと,加速度の大きさが力に反映されることになる.ブロックを使用する手技は,重力のみでアジャストする方法なので間違いなくローフォース・テクニックだといえるし,ドロップ・テーブルを使用する手技や伸延装置を使用する手技も,徒手的アジャストメントに比べれば,ローフォースの部類に入るテクニックである.
 次に,反射テクニックとよばれる手技がある.カイロプラクティックの反射テクニックは,科学的根拠に裏づけられたとはやや言いがたい仮説上の生理学的経路を介して,患者を評価,治療する手法である.このテクニックでは,必ずというわけではないが,体のある部位と生理学的機能の間の連係を考慮することが多い.たとえば,母指の特定の点が心臓の機能に関係しているとか,僧帽筋の圧痛点が子宮の機能に影響を及ぼすといった,まだ科学的に証明されていない連係を評価や治療に応用する.反射テクニックの「反射」は,「深部腱反射」や「病的反射」などの医学用語に含まれる「反射」とは意味が違うので,注意が必要である.反射テクニックで使用する力は他のテクニックよりも弱いが,だからといって,高速のスラスト手技が禁じられているわけではない.
 SOT,アプライド・キネシオロジーおよびその分派のキネシオロジーは,反射テクニックの主流をいく手法といえるだろう.また,テクニックの創始者が認めるかどうかは別として,生体エネルギー同調テクニック,頭蓋療法,ディレクショナル・ノンフォース・テクニック,ネットワーク脊柱分析,スパイナル・ストレッソロジーおよびタフネス・テクニックでも反射テクニックを用いる.なお,多くのカイロプラクターがローガン・テクニックも反射テクニックだと言うが,創始者であるHugh Loganがその見解を認めていないので,どちらとも言えない.レセプター・トーヌス・テクニックの創始者であるNimmoは,トリガーポイントにはたらきかける手技が,たとえ何らかの神経学的経路を介して作用を発現するにしても,直接の力学的作用が主体だと主張しており,これも反射テクニックと言い切ることができない.
 コンプレッション・テストやアイソレーション・テストのような診断法を用いるアクティベータ・メソッド・カイロプラクティック・テクニックも,反射テクニック的要素を含んでいる.アジャストメントに器具を使用することが反射テクニックの重要な条件だという見解もあるが,われわれはこの見解に同意しない.少なくとも先に述べた「反射」のメカニズムを考慮するかぎり,器具を使って力を加える手技が必ずしも反射の仕組みを利用したテクニックといえるとは考えられないからだ.われわれの見解と一致するのは,トルク・リリース・テクニックである.
 カイロプラクティックでは多様な軟部組織テクニックが用いられる.このテクニックには,大なり小なり他の領域の手技(たとえば,オステオパシーで使用されるジョーンズのストレインーカウンターストレイン・テクニック)を借りてきたものや,他の領域と同時に開発された手技(たとえば,Nimmoが考案したトリガーポイント・テクニック),あるいはカイロプラクティック独特の手技(たとえば,カイロプラクティック・マニピュラティブ・リフレックス・テクニック)などが含まれる.このような軟部組織テクニックの中には,リハビリ法の一種として利用されているもの,補助的アジャストメントして使用されているもの,さらには,神経伝達妨害を取り除くためのれっきとしたアジャスト法として使用されているもの(レセプター・トーヌス・テクニック)などがある.

上部頚椎テクニック

この手技の特徴は,力学的原理よりも力を加える部位にある.上部頚椎アジャストメントには,ハイフォースやローフォースなどさまざまな手法がある.このテクニックは,力を加えたポイントとは別の部位に作用が現れると解釈する「エクストラ・リージョナル」の仲間に入るだろう.歩行運動系に働きかけるために足を集中的にアジャストして,それによって脊柱全体を矯正しようとするテクニックなども,上部頚椎テクニックと同様にエクストラ・リージョナル・テクニックに分類される.この解釈に従うと,上部頚椎テクニックを初めとするエクストラ・リージョナル・テクニックは,反射テクニックの分類に属するとも考えられるが,離れた部位になぜ作用が現れるのかという仕組みについては,まだ完全に解明されたわけではない.

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