分離性脊椎すべり症 変性脊椎すべり症

脊椎の骨の一部が離れた「脊椎分離症」、脊椎が部分的にずれた「脊椎すべり症」は、腰痛を引き起こす病気の1つです。成長期の激しいスポーツを続ける青少年の疲労骨折が原因で分離症になり、引き続いてすべり症を起こします。中高年以後では分離症なしに発生し,腰部脊柱管狭窄症の原因となります。起床時や前屈作業の後に腰痛と下肢痛が特徴です。

部位腰殿部 症状痛み
原因疲労骨折・加齢変性 対処専門医の診断
脊椎分離症・脊椎すべり症の病理

「脊椎分離症」や「脊椎すべり症」について説明するためには、まず脊椎の基本構造を理解してもらう必要があります。
 健常な背骨は、1つ1つの椎骨がきちんと積み重ねられた状態になっています。椎骨の前側(腹側)には円柱状の椎体があり、その後ろ側(背側)には椎弓と椎弓根のほか、上関節突起、下関節突起、棘突起、横突起といった突起があります。そして、それぞれの椎骨は、椎間板、靭帯、椎間関節(上下の椎骨の上関節突起と下関節突起から成る)でつながっています。これが背骨の基本的な構造です。
脊椎分離症
 脊椎分離症は、腰部の椎間関節の上関節突起と下関節突起の間に分離が起こる、つまり離れてしまうものです。分離してしまう原因は、生まれつき離れている例もまれにありますが、ほとんどは子どものころにスポーツなどで長期間繰り返し負荷がかかったために「疲労骨折」を起こしたものだと考えられています。少年期からクラブ活動などで熱心にスポーツに打ち込んだ経験がある、という人に多く見られます。
 脊椎分離症の発生頻度は、わが国では4〜7%ですが、イヌイットの人たちでは27%にもなります。このことから、何らかの先天的要因が関係していると考えられます。
脊椎すべり症
 本来ならきちんと積み重ねられた状態になっている脊椎が、前方あるいは後方へずれを起こしてしまうのが脊椎すべり症です。背骨には自然な弯曲があるため、何らかの理由で支えが弱くなると、椎骨のすべりが生じます。特に第4腰椎、第5腰椎がすべりやすい場所です。少しずつすべっていき、そのすべりが大きくなると、神経が刺激されることでさまざまな症状が現れます。
 脊椎すべり症は、脊椎の分離が原因で起こる「分離すべり症」(第5腰椎に好発)と、老化による変性で起こる「変性すべり症」(第4腰椎に好発)の2つのタイプが主です。先天的な骨の形成不全のために起こる「先天性すべり症」もありますが、これはまれなケースといえます。
脊椎すべり症
脊椎すべり症の原因によるタイプ分類
分離すべり症脊椎分離があるために起こるタイプです。最も起こりやすいのは第5腰椎で、分離している部分が広がり、椎体が前方にすべってしまいます。ただし、脊椎分離があっても、すべり症が合併するとは限りません。脊椎分離症の人の約10〜20%が、分離すべり症に移行します。
変性すべり症脊椎分離がないのに起こるタイプで、加齢に伴って起こりやすくなります。加齢によって、椎骨を支持している靭帯、椎間板、椎間関節などに緩みが生じ、椎骨を支えきれなくなってすべってしまうのです。中年以降の女性に圧倒的に多く、起こりやすいのは第4腰椎です。
先天性すべり症脊椎の後方部分の先天的な形成不全が原因となって起こるタイプです。椎間関節がしっかり組み合わさっていないため、成長期になると椎骨がすべってきます。第5腰椎がずれるケースが多く、ずれ方が大きいという特徴があります。比較的まれなすべり症です。

脊椎分離症・脊椎すべり症の症状

脊椎分離症や脊椎すべり症では、主に次のような症状が現れます。ただし、脊椎分離が起きているだけでは、まったく症状が現れないケースもよくあります。
腰痛
 脊椎分離症でも、脊椎すべり症でも現れる症状です。多くは慢性腰痛で、腰の周囲に鈍痛が生じます。長時間にわたって立ち続けたり、同じ姿勢で座っていたり、歩き続けたり、重労働を行ったりした場合に、痛みがひどくなります。
下肢の痛み、しびれ
 脊椎すべり症が起こると、椎骨がすべることで、脊髄から枝分かれする神経の神経根に刺激が加わるようになります。分離すべり症では、疲労骨折で分離した部位が肥厚することで神経根を刺赦します。腰椎からは下肢に向かう坐骨神経が出ているため、腰椎のすべ
り症では、坐骨神経の神経根が刺激されます。これによって、お尻、太もも、膝の後ろ、ふくらはぎなど、坐骨神経に沿った部分に痛みやしびれが起こります。
間欠性跛行
 分離すべり症、変性すべり症で現れる症状です。椎体の後方には神経の通っている脊柱管がありますが、脊椎のすべりが大きくなると、脊柱管狭窄が起こり、神経が圧迫されることがあります。腰椎にすべりが生じると、下肢を支配している神経が圧迫され、間欠性跛行が起こります。これは、ある程度の距離を歩くと脚が動かなくなり、座って休んでいると、また歩けるようになる症状です。立っていると脊椎のずれが大きくなって神経が圧迫されますが、座ると圧迫が緩むため、また歩けるようになるのです。
 脊柱管狭窄が生じた場合には、間欠性跛行に伴って「会陰部の不快感、膀胱障害、直腸障害」などが現れることもあります。
脊柱の変形
 脊椎すべり症で現れる症状です。腰椎にはもともと生理的な前弯 (自然な前方凸のカーブ)がありますが、脊椎すべり症になると、椎骨がすべるためにこの反りが強くなります。さらにひどくなった場合には、脊柱が階段状に変形してしまうこともあります。

医療機関での診断

脊椎分離症と脊椎すべり症の検査で、最も重要なのはエックス線撮影です。これによって、脊椎にすべりが生じているかどうか、脊椎分離が起きているかどうかがわかります。
 エックス線撮影では、正面と側面に加え、斜め方向からの撮影も行われます。脊椎分離症や分離すべり症の診断には、この斜めからの撮影が特に重要なのです。斜め方向から撮影すると、椎骨の後方の突起部が犬(スコッチテリア)のような形に写ります。脊椎分離は上下の関節突起の間に生じるため、分離が起きていれば、この犬の首の部分が切れ、ちょうど首輪のように見えます。
 エックス線撮影だけで分離部が見えない場合には、CT(コンピュータ断層撮影)が行われます。神経や椎間板の状態を調べるために、MRI(磁気共鳴画像) が行われることがあります。
 また、脊椎分離すべり症がある場合、痛みが神経に由来するものかどうかを調べるため、圧迫されている神経根に麻酔を注射する神経根ブロックも行われます。それによって痛みが消えれば、その神経が障害されているために生じている痛みだと診断がつくわけです。

医療機関での保存的治療法

治療法は保存療法(非手術療法)と手術療法に分類できますが、まず最初に行われるのが保存療法です。保存療法としては、次のような治療が行われています。
安静
 腰に負担のかかるスポーツや作業を行わないようにします。患部を安静に保つことで、痛みやしびれの原因となっている神経への圧迫を取り除きます。ただし、すべり症が起きていない脊椎分離症で、腰痛などの症状がなければ、日常生活やスポーツ活動を制限する必要がないこともあります。
薬物療法
 痛みを抑える対症療法として、痛みのあるときに「非ステロイド性消炎鎮痛薬」が用いられます。神経の炎症を抑えることで痛みをとります。内服薬と坐薬がありますが、坐薬は胃に負担をかけず、早く効くというメリットがあります。
 現れている症状によっては、非ステロイド性消炎鎮痛薬に加え、「筋弛嬢薬」「神経賦活薬」「末梢循環促進薬」「向精神薬」などが併用されることもあります。
腰椎コルセットの装用
 コルセットは、腰部の動きを制限することで腰椎を安静に保ったり、前弯が増大するのを防いだりする効果があります。硬性コルセットと軟性コルセットがあり、腰椎をどの程度安静にする必要があるかによって使い分けることになります。
 コルセットを長期にわたって使用していると、筋力が低下してくるので、時々コルセットを外し、運動を行う必要があります。
運動療法
 痛みの少ないときには、腹筋や背筋を強化する運動を行います。
神経根ブロック
 痛みやしびれの原因となっている神経の神経根に、局所麻酔薬を注射する治療です。外来(通院)でも行うことができ、少量の薬で確実な鎮痛効果があります。麻酔によって痛みが伝わらなくなるだけでなく、痛みによって引き起こされていた末梢の血行不良が改善し、薬が切れた後も痛みがなくなります。ただし、痛みが再発することもあります。
 このほか、マッサージなどで痛みが軽減することはありますが、病態によってはマッサージを行うのが好ましくないこともあります。背骨がずれているからといって整体で強い力を加えると、症状が急激に増悪することがあります。必ず医師に相談し、問題がないことを確認してから行うようにしてください。

整体やカイロプラクティックで背骨のずれを治すと腰痛がよくなると聞きますが?
専門医の意見
 慢性的な腰痛がある人は、整体を利用している人も多いようです。しかし、整体は一時的にずれを矯正したとしても、ずれた背骨を根本的に治すわけではありません。再びずれれば、痛みも復活します。また、分離症やすべり症がある人が強い力で背骨を矯正するのは危険な場合もあります。
 慢性的な腰痛がある場合は、まず医療機関で検査を受けて原因を調べ、整体などを受けても問題ないか確認したほうが安心でしょう。

医療機関での手術療法

脊椎分離症や分離すべり症では、保存療法で十分な効果が得られず、日常生活に支障を来す場合に手術療法の適応となります。変性すべり症では、「間欠性跛行」によって100m以上続けて歩けない場合や、「会陰部の不快感、勝胱障害、直腸障害」のある場合に、手術療法を検討します。
 ただ、手術が必要かどうかは、患者さん自身の仕事や日常生活の活動状況によっても異なってきます。起きている病態や症状だけでなく、職業、年齢、希望する生活など、いろいろな要素を考慮して、手術を受けるかどうかを決定することが大切です。
 手術療法は、起きている病態や改善したい症状などに応じて、次のような方法が行われています。
分離だけなら
 分離部の骨が肥厚して神経根を圧迫している場合には、「肥厚部の掻爬」を行い、神経を圧迫しないようにします。また、分離した部分をつなぐ手術としては、金属(ペディクルスクリユーとワイヤー)を用いる「分離部修復術」があります。
すべりを治すには
 ずれている脊椎を元の状態に戻し、脊椎をその状態で固定する「脊椎固定術」が行われます。脊椎固定術は、大きく2つの方法に分類できます。1つは金属(ペディクルスクリユー)を用いて後方から固定する「後方固定術」、もう1つは、すべった椎骨とその下の椎骨との間に骨盤などからとった自分の骨を移植し、椎骨をつなぐ「前方固定術」です。
 前方固定術は骨がつくのに時間がかかりますが、金属を用いる後方固定術なら、骨がつくのを待つ必要がなく、早期離床が可能になります。ただ、前方固定術には、すべりを元に戻して神経に対する水平方向の圧迫を取り除くだけでなく、椎骨の間に骨を移植することで、垂直方向の圧迫も取り除く効果もあります。そのため、神経根が圧迫されているすべり症の治療には適しています。
しびれがとれればいいだけなら
 神経根が圧迫されてしびれがある場合、圧迫を取り除くために、神経の出口部分を広げる「開窓術」が行われることがあります。神経症状をとるための手術です。

日常生活での対処法

 保存療法を行った場合はもちろん、手術療法を受けた場合にも、腰を守るために日ごろから注意する必要があります。
 まず、腰に無理な負担をかけないことが大切で、重い荷物を持つようなときには姿勢に注意します。バーベルを持ち上げるような運動も好ましくありません。長時間立ち続けたり、デスクワークを続けたりするのも腰に負担をかけます。時々姿勢を変えたり、休息を挟んだりすると、腰の負担を軽減できます。
 体重が増えると、腰椎にかかる負担が増すので、肥満しないことも大切です。また、腰を支えている腹筋と背筋を強化することも、腰を保護するのに役立ちます。

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