膝関節の靭帯損傷(捻挫)
部位膝関節 症状運動制限
原因外傷性 対処専門医の診断

激しい外力では側副靭帯,十字靭帯,半月板損傷を疑う必要があります。限局した圧痛や不安定性を確かめる。捻挫は靭帯の一部線維の断裂から完全断裂を含む診断名です。

靭帯損傷,捻挫の病理
>膝関節靭帯

膝関節の外傷は日常しばしば遭遇する損傷で、打撲やいわゆる捻挫(第1度靭帯損傷)に過ぎないものから、靭帯の完全断裂、開放骨折、脱臼と、さらには神経や血管の損傷を合併しているものなど、その程度は様々です。したがって、その治療も一律に論ずることはできず、個々の症例での検討を必要とします。
 捻挫とは関節を構成する軟部組織の挫減であり、脱臼までに至らない全ての状態をいうと定義しており、捻挫の中には靭帯の完全断裂も含まれます。
 しかし、捻挫という用語を、靭帯損傷の軽微なものと解釈している人が意外に多く、関節損傷のうちで、関節包と靭帯が部分的に断裂するが、靭帯はなお連続性が保たれているわずかな損傷が、捻挫だと誤って解釈されているようです。
 この程度の軽度の損傷ならば短期間のうちに治癒するはずであるが、捻挫と診断された患者の治療が長引くのはなぜでしょう。その最大の原因は不確実な診断と不適切な治療にあるといえます。靭帯が完全に断裂していても単純X線像では判断できないこと、外傷直後では腫脹は軽度であること、靭帯損傷の程度により外固定の期間が異なることなどを認識しておかなければなりません。
 膝関節損傷の問診では、年齢と受傷機転が重要な意味をもちます。成長期の子どもが跳び箱の着地で膝を痛めた場合には脛骨粗面の裂離骨折を、青年がバレーボールでジャンプして着地時に膝を痛めた場合には、前十字靭帯断裂を念頭に置く。すなわち年齢によって、同じような受傷機転でも受傷部位が異なる場合が少なくないのです。
 体の接触(body contact)による損傷か、体の接触のない外傷による損傷かを明確にすること。
 受傷後数時間以内に関節が腫脹してきた場合は関節内の出血を疑う必要があります。 24時間以上経過してからの腫脹は関節液の貯留であると考えてよいでしょう。関節血症ではただちに関節穿刺を行い、脂肪滴の有無を調べます。
 脂肪滴が認められれば関節内骨折の存在が考えられます。介達外力(外力が直接損傷部位に作用したのではなく、筋肉の瞬間的な収縮で生じる損傷や尻餅で脊椎の圧迫骨折を生じるような損傷である)による受傷で、血腫に脂肪滴が存在しなければ、前十字執帯断裂あるいは半月板損傷を疑います。膝関節内に血管腫や色素性紡毛結節性滑膜炎があると軽微な外傷が引き金となって出血することがあるので注意を要します。いずれにせよ、関節血症は膝関節損傷の重大な症候です。
 以下に個々の症例について記します。

内側側副執帯(MCL)損傷

MCL損傷は膝の靭帯損傷の中では最も頻度が高く、膝に大きな外反力が加わって発症する。ラグビーなどの互いに衝突し合うスポーツやスキーなどで受傷することが多い。損傷部位はMCLの大腿骨起始部付近が多く、同部位に圧痛を認め、膝を外反すると激痛を訴える。圧痛のみで外反不安定性をほとんど示さない軽症例(第1度損傷)から10°以上の不安定性を示す重症例(第3度損傷)まである。第3度は軽度屈曲位のみでなく伸展位でも外反不安定性がみられ、ほとんどの場合十字靭帯損傷を合併しており大量の関節血症を認める。第1度と第2度の単独損傷では関節血症を生じることは稀である。側方不安定性の検査は膝関節30°屈曲位と完全伸展位で行う。内側側副靭帯のみの断裂では、 30-屈曲位でのみ不安定性が出現し、伸展位では不安定性は認められない。

医療機関での診断
側副執帯損傷の有無を調べるテスト
外反ストレステス患者を仰臥位とし一方の手を膝外側に置き、他方の手で足関節部を把持して膝外反を強制する。膝軽度屈曲位で健側に比し弛みがみられれば内側側副靭帯損傷が、また膝伸展位でも陽性の場合はさらに十字靭帯損傷の合併が考えられる
内反ストレステスト患者を仰臥位とし一方の手を膝内側に置き、他方の手で足関節部を把持して膝内反を強制する。膝軽度屈曲位で健側に比し弛みがみられれば外側側副靭帯損傷が、また膝伸展位でも陽性の場合は十字靭帯損傷の合併が考えられる

単純X線像は正常とされるが、ストレス撮影でのみ損傷の有無と程度が診断できる。なお、単純X線像でMCLの大腿骨起始部付近に石灰化を認めることがあるが、これは通常MCL損傷の修復過程で認められ Pellegrini-Stieda病とよばれている。

内側側副執帯(MCL)損傷の治療

単独損傷であれば外反不安定性は小さいので症状に応じて装具装着などによる保存療法を行う。 4-6週間でスポーツ復帰が可能となり、予後は良好である。十字靭帯損傷を合併した複合靭帯損傷例にはしばしば手術療法が必要となる。

前十字靭帯(ACL)損傷

 バスケットボールなどのスポーツ競技で飛び上がった後着地したとき、走っていて急に方向を変えようとしたとき、あるいはスキーで軸脚となった側の膝関節に前方引き出し力が作用したとき、前十字靭帯は単独損傷を生じやすい。半月板損傷は40〜60%に合併する。受傷時、激痛とともにプツッと断裂音を体感することが多い。数時間以内に関節が著しく腫脹し、関節血症を認める。完全に修復されていない陳旧例ではジャンプや急な方向転換を要するスポーツ動作で膝くずれを繰り返す。放置例では関節軟骨が傷つき、変形性膝関節症に発展する。半月板損傷を合併した症例ではその傾向が強い。

医療機関での診断

膝軽度屈曲位での前方引き出しテストである。ラックマンテストと軸移動テストが陽性に出る。膝関節90°屈曲位での古典的な前方引き出しテストも陽性であるが、 ラックマンテストがより陽性率が高い。

前十字執帯のテスト
ラックマンテスト患者を仰臥位とし、膝軽度屈曲位(20°〜30°)で大腿遠位部を片手で把持し、他方の手で脛骨近位端を前方に引く。前十字靭帯断裂があると、脛骨は前方へ引き出される。
軸移動テスト膝を屈曲位から伸展させる際に膝外反・下腿内旋のストレスを加えるテストで、陽性例では約20°屈曲位で脛骨外側関節面が突然ガクッと前方へ亜脱臼を起こし、患者は不安定感や疼痛を訴える。
前方引き出しテスト膝を90°屈曲位とし、患者の足を検者の殿部で軽く固定した状態で、両手で脛骨近位部を前方へ引く。後十字靭帯断裂のために脛骨が後方へ落ち込んでいる場合も脛骨が前方へ引き出されるので注意を要する。疼痛のために膝の屈曲が困難な急性期ではラックマンテストの方が有用である。
定量的検査
膝関節の前後不安定性を定量的に計測できるKnee Arthrometer(KT 1000)を用いて、健側と比較する方法がある。
 
画像診断
X線像の多くは正常である。ときに脛骨顆間隆起の裂離骨折、関節包の脛骨付着部外前方の裂離骨折であるスゴン骨折、大腿骨外側の荷重部関節面の陥凹を認めることがある。膝関節軽度屈曲位でのストレス撮影で脛骨の前方引き出しを認める。 MR画像では靭帯実質部の断裂像である靭帯部分の膨らみと輝度変化、半月板断裂像、大腿骨外側の荷重部軟骨の出血、浮腫、骨梁骨折を示す(骨挫傷)が観察できる
 

前十字靭帯損傷はラグビー中に側方よりタックルされても生じるわけで、その場合は内側側副靭帯を含む内側支持機構損傷を合併する。

前十字靭帯(ACL)損傷の治療

新鮮例で骨片の剥離を伴っている場合は強固な一次修復を行う。靭帯中央部の断裂は縫合が困難であり、症例に応じ治療法を選択する。あまりスポーツ活動を望まない中高年者には、装具装着や筋力増強を中心とした保存治療で経過をみる。一方、スポーツ活動を望む若い患者には前十字靭帯再建手術を選択する。また陳旧例で、日常の生活動作で膝くずれを繰り返す場合も再建手術が適応となる。
 靭帯再建の素材には自家腱、同種雁、人工靭帯などがあるが、自家腱では骨付き膝蓋腱や半膜様筋腱などの屈筋腱がよく用いられている。再腱素材の設置部位は前十字靭帯の解剖学的付着部位を基本とするが、膝の屈伸で大腿骨と脛骨の付着部間距離がほとんど変わらない部位が望ましいとされている。また再腱靭帯が顆間窩に挟まらないよう顆間窩が狭い場合には十分に拡大する操作(顆間窩形成術)が必要となる場合がある。人工靭帯を使用すれば自家組織を犠牲にする必要がなく初期より強度が確保されるので後療法が短いが、再建靭帯の再断裂が問題になる。最近は、手術侵襲が少ない鏡視下での再建術が主な手術法となっている。後療法では再建執帯に過度の負荷がかからないように注意しながら、可動域改善と筋力増強訓練を行う。
 自家腱や同種腱を用いた例では術後6カ月から1年でスポーツ復帰が可能となる。

 
後十字執帯(PCL)損傷

バイク事故やスポーツ外傷などで膝から転倒し、約90°屈曲位で前方から脛骨粗面部付近に直達外力を受けて受傷する場合が多い。乗用車の追突事故では膝屈曲位で膝前下方を打撲して受傷する。

医療機関での診断

通常脛骨粗面部付近に打撲による皮膚損傷を認める。関節血症を認め、脛骨に後方ストレスを加えると膝窩部に激痛を生じる。膝窩部の皮下出血と圧痛を見落とさないようにする。前十字靭帯損傷に比し膝の機能障害は少ないが、後方不安定性の大きい例ではスポーツ活動や階段昇降などで不安定感や膝蓋大腿関節痛などの訴えがみられる。膝屈曲位(70°〜90°)の後方ストレスX線撮影で脛骨の後方移動を認める。またMRIで断裂部位が確認できる。

後十字執帯損傷の有無を調べるテスト
後方引き出しテスト前方引き出しテストと同じ肢位で脛骨近位部を後方へ押す。両手の親指を関節裂隙に置き、大腿骨遠位部と脛骨近位端の位値関係を評価すると、陽性例では脛骨近位端の後方移動が触知されやすい。後十字執帯損傷の急性期では、後方ストレスを加えると膝窩部に激痛を訴える場合が多い。
脛骨後方落ち込み徴候陳旧性の後十字執帯損傷では後方ストレスを加えなくても膝屈曲位で脛骨近位端が後方に移動していることが多い。このため側方より眺めると脛骨粗面部が健側に比して後方に落ち込んでいるのが観察される。
後十字執帯(PCL)損傷の治療

脛骨付着部での裂離骨片を伴う損傷や靭帯付着部での断裂は修復を行う。単独損傷におけるスポーツ復帰の予後は良好なので大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法を第一選択とする。後方への落ち込みが著しい場合や日常動作に不自由を生じている陳旧例には靭帯再建を行うことが多い。

後外側支持機構損傷

比較的稀な損傷ではあるが複数の靭帯が損傷され、腓骨神経麻痺を合併しやすい。外傷の程度によって、後十字靭帯が損傷される場合とされない場合がある。歩行時に膝関節が反張する不安定性が生じる。患肢の踵を持ち上げると反張膝となり、脛骨外側顆が大腿骨に対し後方に外旋して落ちる現象を観察できる。しばしば手術療法が必要となる。

複合執帯損傷

内側または外側側副靭帯損傷に十字靭帯損傷を合併した重篤な外傷であり、膝関節脱臼を伴う例では、前および後十字靭帯の両方が損傷されている場合が多い。高度の膝関節転位を伴う場合は、神経・血管損傷や関節面の骨・軟骨損傷などの合併損傷の素早い診断と治療が重要となる。靭帯損傷に対しては、個々の症例に応じた治療法が選択される。

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