転移性腫瘍

頚・肩・腕痛が持続し,保存療法ではなかなか治まらない時は転移性腫瘍も考えられます。

腰痛が持続的に進行するときも転移性腫瘍を念頭におく必要があります。起きあがりが困難,夜間痛があるなどの症状がみられます。原発巣不明な例もあり、他部位の手術既往を確かめる必要があります。

背骨の腫瘍の多くは、ほかの臓器のがんが転移してきた「転移性脊椎腫瘍」です。

部位脊柱 症状持続性の痛み
原因腫瘍性 対処専門医の診断
転移性腫瘍の病理

骨にできる腫瘍を「骨腫瘍」といいます。もともと骨腫瘍は発生頻度の低い病気で、しかも、その多くは良性です。骨の悪性腫瘍の代表として知られる「骨肉腫」は、かつては救命の難しい病気でしたが、今は多くが助かるようになっています。
 骨腫瘍には多くの種類がありますが、そのなかで最も多く見られるのは、実は、ほかの臓器にできたがんが骨に転移する「転移性骨腫瘍(がんの骨転移)」です。骨は、肺に次いでがんの転移が起こりやすい部位です。そして、がんの骨転移がいちばん多いのが、体の中心にある背骨なのです。背骨にできる腫瘍は、多くが転移性骨腫瘍といえます。特に、がんの好発年齢である40歳代から70歳代に多く見られます。
 背骨への転移を起こしやすいがんは、乳がん、肺がん、子宮がん、胃がん、前立腺がん、腎臓がん、甲状腺がんなが多く見られます。このうち、最も頻度の高いのが乳がんと肺がんで、この2つで約4割を占めます。また、どこから転移してきたのか、元のがんの場所がわからない「原発不明がん」もまれではありません。がんの既往のある人が注意を要するのは当然ですが、がんの治療経験がないから起こらないとは限りません。
骨肉腫」が子どもに多いのに対し、転移性骨腫瘍は中高年に多く、がんの発症が多くなる40歳代以降に増えます。また、骨転移は複数の骨に起こりやすいのも特徴です。
 背骨では、首から腰まで、どの部位にもがんの転移が起こります。特に椎体部に起こりやすく、転移が起きた椎体には虫にくわれたような孔があいて、微細な骨折が続きます。もろくなった椎体は、ちょっとしたことでつぶれるようになります。

転移性腫瘍の症状

転移性骨腫瘍の症状といえば、まず「痛み」があげられます。背骨にがん転移が起きた場合、患者さんは腰や背中の痛みを訴えます。最初は肋間神経痛のような痛みと感じることもあります。
 痛みは次第に強くなり、寝ていても痛くなります。がんが進行すると、骨折が重なり、激痛に襲われるようになります。
 がんによって脊髄が圧迫されると、麻痺が起こることもあります。頚椎の腫瘍では四肢麻痺が、胸椎や腰椎の腫瘍では下肢の麻痺が現れます。

医療機関での診断

中高年の患者さんの場合、腰や背中の痛みはありふれた症状なので、「年のせい」と考えがちですが、痛みがだんだん強くなるときは、見過ごせません。問診では、痛みの性質や経過、がんの既往などがポイントになります。原発がんの治療をしてから3年、5年とたち、がんはもう治ったと思われるころに起こる例も多いので、注意を要します。実際、骨転移は患者さんの自覚症状から見つかることがよくあるのです。
 診断に当たっては、通常、まずエックス線検査が行われますが、がんがかなり大きくならないと、エックス線検査では見つかりません。
 早期に見つけるためには、CT検査やMRI検査、骨シンチグラフィーなどが行われます。骨シンチグラフィーは全身を一度に調べることができ、3mm以上のがんは写し出すことができます。
 がんの骨転移が見つかれば、ほかにも転移がないか、全身を徹底的に調べます。

医療機関での保存的治療法

がんの大きさが大豆より小さいくらいなら、まず放射線療法、化学療法(抗がん剤)、ホルモン療法などの保存療法を考えます。
 転移性腫瘍の場合、治療法は原発のがんによって違います。同じように背骨にできていても、原発のがんの性質を有しているからです。例えば、乳がんや前立腺がんなどでは、ホルモン療法が有効です。
 最近では、転移したがんが限局している場合には、手術や放射線療法で積極的な治療を行うケースも増えています。手術を行ったあとに放射線療法や化学療法を行うこともあります。ただし、放射線療法は繰り返し行うことはできません。
 また、転移したがんが広がって根治的な治療は難しい場合でも、骨折による激痛を取り除く手術は可能です。脊髄麻痺が生じた場合にも、麻痺の解消のための手術が行われています。がんの転移による脊髄麻痺は、交通事故の際の麻痺のように脊髄が切れてしまうようなものではなく、がんが大きくなったために圧迫されて起きているものなので、早めに手術で圧迫を取り除けば麻痺は回復します。
 ただし、手術が行われるのは、患者さんにとって、手術による身体的な負担より手術後のQOL(生活の質)向上のメリットのほうが大きいと考えられる場合です。

医療機関での手術療法

従来は、一般に、背骨にがんの転移が見つかると、がんの末期状態と考えられ、治療といえば麻痺対策とターミナルケア(ホスピスケア)が行われてきました。しかし、近年、整形外科的な治療は大きく変わりつつあります。
 最近までは、転移性脊椎腫瘍が見つかったときには、すでに何か所にも転移があるのが普通だったので、手術といっても、骨折に伴う痛みをとったり、麻痺症状の改善など、対症的なものに限られていました。
 しかし、今は、原発がんの治療法が進歩し、画像検査の精度が向上したことで、早期の限局した骨転移が見つかるケースが増え、根治を目指す手術も行われるようになっています。
 骨転移が起きても、早期のうちに病巣部を完全に切除できれば、助かる人がいることがわかってきたのです。
 どういう治療がいちばんよいかはがんの性質によっても違い、必ずしも手術が適するとは限りませんが、骨転移が起きたことがわかったら、あきらめる″時代から有効な治療法を探す″時代になってきたといえるでしょう。
 手術が適応になるのは、主に腕や脚の病的骨折、脊椎転移に伴う疼痛、脊髄まひなどです。ただし、手術が行われるのは、原則として、手術に耐えられる体力があり、かつ余命が2か月以上ある患者さんに限られます。

緩和ケア

がんが進行し、手術などの治療が適さなくなった患者さんに対しては、緩和ケアが行われます。中心になるのは薬物療法です。骨に転移したがんは激痛を起こすことで知られますが、近年は、モルヒネ(医療用の麻薬)などを用いる積極的な疼痛コントロールで、痛みのない生活を目指します。緩和ケアに用いる薬物には、次のようなものがあります。

〇モルヒネ
医療用麻薬で、最も強力な鎮痛効果がありますので、痛みが非常に激しい場合に用いられます。
 モルヒネ製剤には、水薬、粉薬、錠剤、坐薬、注射薬などがあり、患者さんの病状などに応じて使い分けます。例えば、薬を口からのむのが難しい場合は、坐薬を使用し、早急に痛みを緩和させるためには、注射薬による点滴なども行われます。
一方、モルヒネには、副作用もあります。最も多いのは、吐き気や嘔吐ですが、便秘、眠気、排尿障害などもしばしば見られます。こうした副作用を抑えるため、制吐薬(吐き気止め)や精神刺激薬、下剤、排尿障害治療薬などを、モルヒネと併用します。なお、疼痛緩和を目的として、医師の指導でモルヒネを用いる限り、麻薬中毒の心配はありません。
〇その他の鎮痛薬
モルヒネ以外にも、非ステロイド性消炎鎮痛薬や一部の抗不整脈薬なども用います。非ステロイド性消炎鎮痛薬は、炎症による痛みを抑えるのに効果があることから、炎症を伴う場合は、モルヒネと併用することがあります。また、モルヒネが効かない場合に、塩酸リドカインを持続的に注射すると、鎮痛効果が得られることがあります。
〇抗うつ薬
患者さんのなかには、モルヒネで抑えられない痛みが続き、うつ状態になっている場合があります。こうした場合には、抗うつ薬で、うつ状態を改善することにより、痛みも改善されることがあります。
〇催眠・鎮静薬
痛みなどで、不眠状態に陥ったときに用いられます。
〇副腎皮質ホルモン薬
がん末期に起きる食欲不振や全身倦怠感といった、全身症状を改善するのに効果があります。また、抗炎症作用や鎮痛作用のほか、高カルシウム血症、がん性腹膜炎、がん性胸膜炎といったがん性の随伴症状の改善作用などももっています。
〇高カルシウム血症の治療薬
骨転移がんでは、患者さんの20〜30%に高カルシウム血症が発症します。高カルシウム血症を起こすと、情緒不安定になったり、眠気に襲われたりするだけでなく、放置すれば昏睡状態から死に至る場合もあります。高カルシウム血症の治療には、骨代謝改善薬、骨吸収抑制薬、副腎皮質ホルモン薬などが用いられます。

この時期にどんなケアを行うのがよいかは、患者さん自身の生き方、価値観によって大きく違ってきます。充実した、自分らしい時間を過ごすために、何を重視したいのか、担当医たちに意思表示してください。

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