脊柱靭帯骨化症 (後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症・前縦靭帯骨化症)

「脊柱靭帯骨化症」とは、背骨を支えている靭帯が骨のように固く厚くなって(骨化)、さまざまな神経障害を招く病気です。後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症・前縦靭帯骨化症があります。骨化が起きても症状が出るとは限りませんが、わずかな外傷から脊髄障害を起こす例が多いので、強い衝撃には注意が必要です。

部位頭頚部・胸部・腰部 症状巧緻運動障害
原因加齢変性 対処専門医の診断
脊柱靭帯骨化症の病理

背骨=脊柱を構成している1つ1つの骨「椎骨」は、円柱形の「椎体」と、背中側に出ているいくつかの突起を持つ弓状の「椎弓」から成ります。椎弓と椎体に囲まれてできた孔が「椎孔」で、これが縦に連なって「脊柱管」を形成しています。この中を脊髄が通っています。
背骨を支える靭帯には、椎体の後ろ側を縦に走っている「後縦靭帯」、前面を走っている「前縦靭帯」、椎弓をつないでいる「黄色靭帯」などがあります。後縦靭帯と黄色靭帯は椎骨とともに脊柱管を構成しています。
 これらの靭帯に骨化が起こる病気を総称して「脊柱靭帯骨化症」といい、後縦靭帯に起こったものは「後縦靭帯骨化症」、黄色靭帯に起こったものは 「黄色靭帯骨化症」、前縦敵背に起こったものは「前縦靭帯骨化症」と呼ばれます。骨化の起こる頻度が高いのは前縦靭帯と黄色靭帯で、黄色靭帯骨化は胸椎によく起こります。脊髄障害が出やすいのは後縦靭帯骨化症で、頚椎によく起こります。
 骨化が脊柱管内で起こる後縦靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症は、圧迫による重症の脊髄障害を引き起こす率が高いことから、難病の1つとされています。首の骨に起こる「頚椎後縦靭帯骨化症」が代表的です。胸椎や腰椎、あるいはほかの靭帯の骨化を合併することもよくあります。

原因はよくわかっていませんが、体質的な要因と環境的な要因が重なって起こると考えられています。特に日本人には多く、生まれつき脊柱管が狭いことも脊髄障害を発症させるlつの危険因子とされています。受診年齢は50歳代以上が多く、転倒などによる外傷が発症のきっかけになることもよくあります。

脊柱靭帯骨化症の症状

多くはしびれから始まり、知覚、運動、尿の障害が現れます。
靭帯の骨化は加齢に伴って徐々に進行するので、脊柱管がかなり狭くなっても症状がなかなか現れません。
 頚椎後縦靭帯骨化症では、局所症状として、「肩こり、首の痛み」などが起こります。これらはいろいろな原因から起こるので、多くの患者さんは「しびれ」から異常を感じ始めます。

神経根や脊髄が圧迫されることによる症状はさまざまですが、次の3つに大別されます。

  1. 知覚障害:「手足のしびれや痛み」を感じます。
  2. 運動障害:「服のボタンのかけはずしが難しい、箸が使いにくい、字を上手に書けない、ひもが結べない」など、手指の細かい動作がうまくできなくなります。ただし、右利きの人に左手のみに症状が出ても、気づきにくいことがあります。また、脚が突っ張ったようになって歩きにくくなる「痙性歩行」も見られます。つまずきやすくなったり、階段の上り下り、特に下りるのが難しくなったりします。
  3. 尿の障害:病態によっては「尿が出にくい、残尿感、尿が漏れる(失禁)」などが現れます。便が出にくくなることもあります。

ただし、転倒などのちょっとした衝撃がきっかけで、一気に発症することもあります。また、頚椎の後縦靭帯骨化症に椎間板ヘルニアを合併したりすると悪化します。
 症状は後縦靭帯骨化症でも黄色靭帯骨化症でもほとんど同じです。ただし部位によって異なり、下位頚椎や胸椎に起こった場合は胸の圧迫感や肋間神経痛のほか、狭心症の胸痛と間違えやすい症状が現れます。

医療機関での診断

診察の際は、まず症状についての問診が行われます。しびれや痛みのほか、排尿・排便の異常がないか、症状が現れるきっかけになる事故やけががなかったかも聞きます。糖尿病の既往歴も重要です。高血糖の状態だと、たんぱく質の変性が起こりやすく、靭帯の骨化に影響するからです。
 神経・脊髄症状を調べるために、感覚や反射、運動機能の検査も必要です。腱反射テストや、手でグーパーをすばやく繰り返す10秒テスト、筋力テストなどを行います。
 靭帯の骨化は、エックス線検査で確認でき、背骨を側面から撮影すれば発見できますが、詳しくはCTで確認することもあります。ただし、脊髄はエックス線では確認できないので、MRI検査を行います。どの部分で脊髄が圧迫されているかはMRIで鮮明にとらえることができます。脊髄造影や筋電図検査などは、ほかの病気との鑑別が難しい場合や、手術を前提にして行われるのがほとんどです。

医療機関での保存的治療法

残念ながら一度起こった靭帯の骨化が治ることはありません。保存療法は頚椎の安静が主体となります。すなわち、首の動きによって生ずる脊髄の圧迫を軽減するために行います。

これらの保存療法を1か月間ほど行っても効果が得られず、脊髄障害が明らかな場合は、手術を考えることになります。

医療機関での手術療法

脊柱管を広げる手術などで脊髄への圧迫を除きます。
 すでに脊髄障害によって歩けなくなったり、排尿。排便機能が障害されている場合は早めに手術を行うことが必要です。また、保存療法を行っても症状が改善しない場合も同様です。さらに、痛みやしびれによって、日常生活が著しく障害され、患者さんが希望する場合も手術が行われます。ただし、手術では痛みや歩行障害などの運動機能はかなり改善されますが、しびれなどの神経症状は残りやすいといえます。

手術法としては次のようなものがあります。
脊柱管拡大術
背側を切開し、脊髄の通っている脊柱管を後方に広げることで、脊髄への圧迫を解消します。手術に要する時間は1〜2時間、ベッド上での安静は数日で済み、1〜4週間カラーを着けて頚椎の安静を保ちます。現在はこの手術法が主流になっています。
前方除圧固定術
いろいろな手術法がありますが、基本的には、首の前方を切開して神経を圧迫している部分の椎骨を除き、代わりの骨を移植して固定します。
椎弓切除術
背側から切開して、圧迫部の椎弓を切り取り、脊柱管の背側を開放します。その分、脊椎が不安定になるなどの問題もあるので最近では減っていますが、胸椎部の除圧のためには行われることがあります。
日常生活での対処法

背骨が曲がりにくいので衝撃が加わらないように注意します。
 靭帯骨化のある人は体が固いので、例えば頚椎にある人では、上を仰ぎ見るような姿勢を避けるなどの注意が必要です。わずかな外傷をきっかけに症状が出るケースが多いので、プールへの飛び込み、器械体操など、頚椎に衝撃の加わるようなことも控えましょう。
  また、マッサージや整体などで、強い力が加わると危険なことがあります。安易に受けず、医師に相談してください。
 交通事故でけがをしたときに、脊柱靭帯骨化症があることを知らずに脊柱を強く動かしたり牽引したりして脊髄を傷め、まひ状態を引き起こした例もあります。日ごろから自分の背骨のことをよくわかってくれているかかりつけ医をつくり、万一事故にあっても、翌日にはその医師のもとへ運んでもらうようにしておくことが勧められます。

国の特定疾患

後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症は国の特定疾患に認定され、脊髄障害を伴う後縦靭帯骨化症では、健康保険の自己負担分について公費負担が受けられることがあります。自治体の保健所が申請窓口となっているので、問い合わせてみるとよいでしょう。
*特定疾患について詳しくは難病情報センターホームページ(http://www.nanbyou.or.jp/what/index.html)参照。

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