いわゆる腰痛について

腰痛は2足歩行を始めた人類の宿命とも言われ,下位腰椎部は構造的な弱点と考えられます。そこに過剰な負荷や,慢性的疲労,加齢による変性などが加わり,一生の間に6割以上の人が腰痛を経験するそうです。

腰痛を起こす要因はたくさんありますが、多くは腰椎の問題といえるでしょう。突然、腰に強い痛みが起きたら、「ぎっくり腰」などの急性腰痛をまず考えます。

慢性腰痛はひとくくりに「腰痛症」と呼ばれることもありますが、原因がわかれば、それぞれの病名がつけられます。

比較的若い年代から見られるのが、腰椎椎間板ヘル二ア脊椎分離症・すべり症などです。

中高年になると、椎間板や骨の老化による腰椎症腰部脊柱管狭窄症などが増えます。

高齢者では骨粗鬆症による脊椎骨折が腰痛の原因であることも少なくありません。糖尿病の人では化膿性脊椎炎も考えられます。

結核性脊椎炎(脊椎カリエス)でも腰痛が起こることがあります。強直性脊椎炎では、腰からおしりにかけての痛みが起こります。寝ていても腰が痛いというときは、脊椎腫瘍なども疑う必要があります。

心因性腰痛は、痛みの出方が動作と関係しないのが特徴です。近年、腰痛のなかに心理的な要因によるものが多いことが注目されていますが、うつ病の初期症状として腰痛が現れるケースも結構あります。精神症状より先に身体症状が目立つうつ病も少なくないのです。原因不明の慢性腰痛では、こうした可能性も考えてみる必要があるでしょう。

また、内臓の病気の関連痛として腰痛が現れることもあります。

なお、朝起きたときに腰全体が張るように痛むという場合は、軟らかすぎる敷布団やベッドが原因のこともあります。

腰痛の要素別分類

原因要素\緩急 突然起こった急性の腰痛 いつの間にか始まった慢性の腰痛
外傷性腰痛 腰椎のねんざ,靭帯の損傷・断裂
関節包のねじれ・インピンジメント
疲労骨折による脊椎分離症など
筋肉性腰痛 腰背筋の肉離れ(筋・筋膜性腰痛) 筋肉の疲労による痛みや、筋肉の血液供給が不足して栄養・循環不良で起こる。梨状筋症候群
椎間板性腰痛 椎間板ヘルニアによる馬尾障害・神経根障害 老化による椎間板の変性や、ヘルニアによって神経が圧迫されるため起こる
椎間関節性腰痛 椎患関節捻挫 老化に伴って椎間関節にかかる負担が増え、関節の変形が進んで腰痛を招く
骨性腰痛 椎体骨折,転移性脊椎腫瘍
化膿性脊椎炎,強直性脊椎炎
骨粗鬆症で骨がもろくなり、背骨がつぶれたりして痛みが起こる
姿勢性腰痛   骨粗鬆症で腰が曲がったり、椎間板や椎骨の変性による腰の弯曲異常が原因
心因性腰痛 心身症,心気症 家庭や職場の環境、経済状態などの心理・社会的要因が深くかかわっている
内臓の病気が原因 胃・十二指腸潰瘍穿孔,急性膵炎
尿管結石,腎盂・腎炎
解離性大動脈瘤
子宮内膜症,骨盤輪不安定症、子宮外妊娠
胃腸,すい臓,肝臓,胆のうの病気,かぜなど
腎臓,尿管結石,膀胱の病気など
腹部大動脈瘤,血管の閉塞など
子宮筋腫,子宮ガン,子宮後屈など

痛みのタイプ

腰痛とひと口に言っても痛み方はさまざまです。人によって痛みの強さも、痛みの出る状況も違います。

腰痛のタイプは、まず、突然起こった急性の痛みなのか、いつのまにか始まった慢性の痛みなのかに大きく分けられます。

すべての痛みは、痛みを感じる知覚神経が痛み物質の刺激を受けて初めて痛みとして認識されるわけです。

図の印は、腰椎の痛みを感じる部位を示したものです。この他に筋・筋膜組織や靭帯組織にも知覚神経は張り巡らされており痛みを感じます。

また炎症反応は痛み物質を産出します。

更に疼痛を抑制するために障害のあった部位の周囲の筋が硬直することにより、二次的に痛みが発生し、痛みの悪循環に陥ることがあります。

脊柱の中を通る脊髄(馬尾)に障害が起こった場合は,痛みのほかにそれらの神経が支配する領域の機能に影響を与えることも有ります。

脊髄から脊柱管の外に枝分かれする付根の部分を神経根といいますが、この神経根が圧迫されると、その部分だけでなくその延長上の神経の感覚や運動の機能に影響を与えることも有ります。

これらは,腰部に原因があった場合です。

これら以外に,他の原因が腰痛を引き起こすこともあります。


さらに、動いたときに痛みが強くなるのか(運動時痛)、寝ていても痛いのか(自発痛)が、大きなポイントになります。腰椎の加齢変化に伴う腰痛は、普通、動いたときに痛みが強くなる運動時痛です。じっとしていても痛い自発痛の場合は、感染や腫瘍などを考えることも必要になってきます。

また、腰だけが痛いのか、あるいは、腰から響くような痛み(放散痛)があったり、腰以外のところも同時に痛む(関連痛)のかなども、腰痛のタイプを分けるポイントといえます。

腰痛のタイプを把握することは、腰痛の原因を探る第一歩となるのです。腰痛で受診するときには、どんなふうに痛いのかを詳しく伝えてください。

運動時痛 動いたときに痛みが生じるもの。ある特定の動作の場合もあれば、体を動かすだけで痛みが起こるときもある 筋膜痛,関節痛,加齢性の腰痛
自発痛 何もせず、じっとしていても痛みが起こるもの。この場合は痛みの強さも重要。がまんできないほどの痛みは、緊急を要することもある 感染や腫瘍などの可能性
放散痛 動いたり、ある動作をすると、痛みが腰以外のところにまで響くもの。どこへ痛みが走るのかも診断の需要なサイン 坐骨神経痛など神経根の障害
関連痛 腰以外の場所に、動作に関係なく、腰の痛みと連動するように痛みが現れる 内臓の病気の関連痛など
腰痛の原因

腰椎の病気をその原因から見ると、加齢性(変性)疾患、外傷性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、代謝性疾患などに大きく分けることができます。

そのうちで最も多いのは加齢性疾患です。 中高年になると腰痛に悩まされる人が増えてきますが、そのほとんどは背骨の老化が原因で起こります。 背骨の加齢性疾患の多くで、基盤となっているのが椎間板の変性です。加齢に伴い椎間板の弾力が低下し、厚さが薄くなると、椎骨や椎間関節にかかる負担が大きくなり、骨の変形なども生じてきます。腰椎椎間板ヘルニア腰椎症(変形性腰椎症など)変性すべり症、分離すべり症腰部脊柱管狭窄症などが代表的な病気です。

外傷性疾患では、事故やスポーツなどによるけがのほか、腰を酷使したために起こる分離症などがあります。

腰椎に起こる腫瘍性疾患としては転移性腫瘍が多く、代謝性疾患である骨粗鬆症による脊椎骨折も腰椎によく起こります。

加齢性(変性)疾患 老化により腰椎が変形したり、すり減ることによって起こるもの ぎっくり腰腰椎症(変形性腰椎症など)、椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症変性すべり症,分離すべり症
外傷性疾患 事故やスポーツ時のけがが原因で起こるものや、腰の酷使によって起こるもの ねんざ、骨折、打撲、分離症(分離すべり症)
腫瘍性疾患 背骨や神経にできる腫瘍のほか、骨にがんが転移して起こるもの 脊髄(馬尾)腫瘍、原発性脊椎腫瘍、転移性脊椎腫瘍
炎症性疾患 細菌感染などが原因で起こるもの、リウマチや自己免疫疾患などの病気によるもの 感染性脊椎炎(化膿性脊椎炎結核性脊椎炎)、強直性脊椎炎リウマチ性脊椎炎
代謝性疾患 カルシウムなど骨の形成に必要な栄養素の代謝異常が原因で起こるもの 骨粗鬆症破壊性脊椎症
その他 その他の原因で起こるもの 脊柱の弯曲異常(脊柱側弯、脊柱後弯)、心因性腰痛、職業病としての腰痛

「腰痛症」という言い方があります。広い意味では腰痛があれば腰痛症ともいえます。 しかし、原因は「腰椎椎間板ヘルニア」だったり「腰椎症」だったりします。

「坐骨神経痛」というのも、病名ではなく症状名です。原因が腰椎椎間板ヘルニアで起こることもありますし、腰部脊柱管狭窄症などでも起こります。

腰椎症で悪くなっているところが限定されていれば、「椎間板症」「椎間関節症」といわれる場合もあります。エックス線検査で椎骨の変形が確認され、それが症状を起こしている原因だと判断されれば、「変形性腰椎症」という診断名もよく使われます。

椎骨の変形によって脊柱管の狭窄という病態が起きて、間欠跛行が現れたら、「腰部脊柱管狭窄症」と診断されるでしょう。

つまり病名が、症状からの呼び名、原因からの呼び名、画像所見からの呼び名、あるいは病態からの呼び名など、1人の人の病気がいろいろな呼び方をされることがあります。

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